初速を上げる13の方法
この記事はタイパー Advent Calendar 2018 - 4 日目の記事です。長いよ。
やっほ~ガチタイパーのみんな、無益にタイピングしてるかな?
自宅でしこしこエタイ腕試し記録狙いの粘着とかしちゃって、あげく土日つぶしちゃう根暗趣味ぃのみんなが、1 ポイントでも高い記録を出して、自宅の PC デスクの前でひとり、刹那、極上の自己満足に至れるようにと願って、今日は初速を速くする(レイテンシを縮める)方法をまとめてみたよ。
というわけでこの記事はガチタイパー向け。e-typing 腕試しで言ったら 600 pt くらいは出せて、650 pt ~ 750 pt ゾーンへ行きたいんだけども rkpm にして 1000 近く出しても初速が激遅、レイテンシ 0.5 秒超えで足を引っ張りまくりつらいんじゃ~ワイもエタイの才能をエタイ人生だった! という人が理想的な読者だよ。そういう状況の人、ときおり見る気がいたします。
まあ実力がそれより下でも上でも、国内随一の競技タイピング大会 REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP (RTC) のオンライン予選に e-typing が採用されているということがありますし、TOD みたいな初速重視の面白いゲームが今後出てこないとも限りませんし、初速について一度ちゃんと見ておくことはタイパー人生にとって益のあることではないでしょうか。
いや、そもそもお前何? 初速神なの?
記録マウンティングでの権威づけはタイピング界のキホン、実力のない雑魚の妄言につきあう必要はねぇ! というご意見ごもっともでございます。
初速神として名高いようすけ・あきうめクラスとはいかないんですが(とかいう懐古ネタが通じる人どれくらい生き残っているんでしょうね?)、エタイ腕試し 15 ワードの平均レイテンシで 300 ms 台は出るようになった人だよ。ガチ勢の中でもやや速いね、くらいの位置かと思います。
ちなみに先述の神話クラス両名は 300 ms 台前半がぽんぽこ出せるし、TOD 全力疾走で 30 秒切りを叩き出した時期にはもっと速かった可能性すらあるというバケモノだよ。
と、上には上がいるわけなんですが、私の記録の価値は人と比べてどうこうじゃなくてセンスなくて初速ゴミだった人が、理屈と工夫で色々やってここまで縮められた! という差分だと考えています。
昔のことなので記録画像を出せないのが残念ですが、実は私も初速の改善をする以前は平均が 550 ms くらいでした。初速意識するぞ~と身構えて瞑想して深呼吸して目を血走らせて極限集中ッ! 刹那の見斬りィィィィ! しても 500 ms すら切れない絶望たるや……。初速という要素だけで 15 ワード計 2 秒とか差がつく残酷すぎる現実。これが人間性能の差、前世の徳の差、決して超えられない才能という壁なのね――。
そういう気持ちになってくるの、わかります、わかります。私にはわかりますよだって経験あるもん。その経験があるからこそ、そこから這い上がって初速に不安はないと自信を持てたからこそ、ノウハウをまとめておく価値があると思ったのよ。
前置きが長くなっちゃったけど、項目ごとにいってみよう。
1. ローマ字読みする [-30 ms]
初速要素ありの和文ゲームでガチ勢とやりあおうと思ったら、最優先でマスターしておくべきスキルがローマ字読み。改めて説明する必要などないとは思うけど、ここで言うローマ字読みとは「日本語の文ではなく、打鍵する内容がローマ字表記で表示されている部分を見て打つこと」だよ。
漢字かな交じりの日本語文を見て打鍵するには、まず文字列を読んで頭の中で音 にする必要があるね(いわゆる内読の発生)。それから音に対応する動作を引き出してきて、実際に打つって流れ。無意識にやってることだから、言われてみないと気にしないけど、実は この音を認識するフェーズが重くて時間がかかってしまうことが知られています [要出典] 。
一応、一文字目にひらがなが来るケースなら、文字と動作が対応するので内読せずに打ち始めることは可能だけど、漢字が来るとお手上げだね。さらに漢字は 一文字だけでは読み方が確定できず、複数文字を認識しないといけないケースがよくある。これもダブルパンチで効いてきて……結局、デフォルトで複数文字を読み込んでから打鍵することになりがち。
それに対して、ローマ字読みをすれば見た文字はそのままダイレクトに動作に対応することになるよ。このとき音とかいう余計なものは挟まらない。認識した文字をそのまま指示として使って打鍵動作へ移れてはぴはぴハッピー。
言葉にするとややこしいけど、図 1 を見てもらうとはっきりわかんだね。
ただし注意! ローマ字の方を見ればいいだけってわけじゃないからね。ROTEN を見て「ろてん」って頭の中で読んでしまったら効果激減。ROTEN を見たら「こういう動きだ」ってイメージが直に浮かんで、指が [R] [O] に向かっていく。そのあとで「あっ露天風呂のろてんね」ってやっとわかる。この感じを目指そう。動き出す前に発音が浮かんでしまうってことは内読が発生しているから、ローマ字読み失敗ってことだよ。
この注意点があるから、ローマ字「読み」という名称は誤解をまねいて良くないなと思ってたり。読んじゃダメなので。速読法の文脈で使われてる内読排除という言い方が目的をはっきり言い表しててわかりやすいかな。
普段使いでタイピングをしているだけだと音に頼った打ち方しか経験しないはずで、字を見て見たまま打つ内読排除の打ち方は少しテクいスキル。センスのある人ならこんなのウダウダ言われなくてもどこかの段階で無自覚に習得しちゃうんだと思うけど、初速おせーなーとか思ってるタイプのみんなはセンスがないので(!)意識して身につけようね。大丈夫、この内容を踏まえた上でタイプウェルオリジナルとかで特訓すれば、ちゃんとものになるよ。
きちんと内読排除できれば効果は大きくて 30 ms くらいは縮む……はず?多分、数字の根拠はないけど……うん……ごめん。今回挙げる中では最も効果が大きい気がする! という体感に基づき、こう見積もってみた。
2. 初打を先行させる [-15 ms]
内読排除は前提として、その上でもう一工夫。ワードが表示される瞬間は初打一文字だけに集中し、その一打だけを高速に打つ競技であるかのように構えて打ち始めようね。
こうすることで認識するべきパターン総数が絞り込まれて、その分だけ、反応時間が短くなるよ。脳科学の分野では Hick の法則 [W. E. Hick, 1952] として知られているんだって。いやまあ数式とかむっつかしいことは抜きにしても、速くなるはずってことは直感的にもわかるよね。
加えて、打鍵の組立のコストも軽くなりそう。先の例を引き続き使うと、ROTEN 49437 を想起するより R 4 を想起する方が速い。明らかに。つまり認識も組立も速くなる! 良いことづくめじゃないですか先輩!!!
ハイ、ここまでちゃんと自分で考えながら読んでくれた良い子のみんなは、既に次のような気持ちでいっぱいかも。
「はぁ? そんな打ち方してレイテンシだけ縮めてもその後が遅くなっちゃ意味ねえだろ、見せかけの初速を盛っても意味ねーんじゃボケ」と。
でもね、私は天才なので、そんなことは先刻承知で申しておりましたの。つまり、この打ち方をきちんと習得することで、初打までの時間が縮むだけでなく、ワード全体のタイムも縮むことが期待できます。
からくりはこうだよ(からくりに興味ない人は読み飛ばしていいよ)。
意識的に初打だけを見ているので、まず視野の中心でとらえた R が認識され、一文字なので高速に認識・組立されていくよね。そして動作へ――でもちょっと待った、そうこうしている間にだいぶ時間が経っちゃった。だいぶゆうても 50 ms とかのスケールの話ですけど、脳の処理速度からするとだいぶ。そのだいぶの時間で、特に意識はしていなかったんだけど隣にあるもんだから、OTEN という文字列も目に入って認識されてくる。この OTEN、R を打ち終わるまで待ちぼうけかにゃ? そんなことはないお!! 人差し指が R キーへ到達しようかというまさにまさにその動作の最中に、嗚呼 OTEN はこうこう打つんだったわい v(^_^) そういう表象、打鍵列が組みあがってくるじゃないですか! となれば接続です。O は即打ちに行く、T は R と同指だから押下後の動作をつなげて E はロールオーバーよ!
……まあ実際はこんな風に悠長に思考するわけではなくてすべてが頭の中で瞬時に行われる感覚的なもの。とはいえ打鍵列のマージがガッチャンと行われてスムーズにつながり、結果 R と OTEN の間に大きな空白時間は生じません。慣れれば。
初打だけを意識することでレイテンシをカットしつつ、R と OTEN は大きなロスなくつながった。結果 R / OTEN の方が ROTEN よりも速い。狐につままれたような気分かしら。人間の脳は機能ごとに並列処理ができるのでこうなるんじゃないかな。普段気にしてませんが脳、相当多くのことを同時に処理してますからね。目で画面を見て耳で音楽を聴き指先でキーボードを叩きながらおなか減ったな~とか考えることができてすごい。
上記の図に戻ってよく見てほしいんですが R の組立をしているときには OTEN は文字認識を、R が動作に入ってから OTEN は組立をしているように描いてます。フェーズがずれてるので、それぞれの処理は同時にひとつまでしか走ってないんだけども、全体でみると並列的に処理される。そこで時間が稼げる。計算機の世界で言えばスーパースカラーです。
「でコレ、こんなけったいなこと、本当にできるんか? お前言うておいてできんっちゅーことはないやろな?」
ごもっともですが、意外なことにこれは内読排除よりも簡単で、サクッとできます。内読排除ちゃんとできてる人なら言われて即日できるレベル。
なぜかといえば、これ要はただの先読みだからです。
R / OTEN という 2 ワードに分けて、R だけレイテンシ重視で打ちにいってる間に OTEN を先読みしといてね、R は初打で動作にも時間かかるから OTEN を先読みする余裕は十分あるっしょ、というだけの話なの。延々と人間の脳はスーパーなんちゃらなんじゃ~とかブっておいてオチはこれ。バトタイで「R OTEN BURO」みたいなの出てきたとして別に途切れず普通に打鍵つなげるよね? タイパーはとっくに、並列的に認識・組立して運動うまいことつなげるってことは常日頃やってるわけです。
一応体感レベルですがコツを書いておくと:
- はじめは「切る」ではなく、一文字目だけを認識するつもりで良い
- 初打を認識したあとも視線も動かさない。一文字目を見たまま、視野に入ってる後続部分が自然に認識されていく感じ
- 乱暴に例を選んでしまったが R / OTEN の1 → 4 文字はやや多い。後続部分の認識・組立に時間がかかりすぎては並列処理で相殺しきれないので 1 → 2 か 1 → 3 がおすすめ
- さらにその後ろはというと、動作中に時間が余ってくるので内読するなり最適化組むなり好きにしておk
ともかく「最初の一打だけ分離する、二打目以降は先読みでつなげる」と意識して練習すれば、パッと見のエグさに反してそのうち自然にできるようになります。これだけで 15 ms とか稼げちゃう[要出典]からおいしい。
3. ホームポジションへの戻しを意識する [-10 ms]
ホームポジション、してますか?(意味不明)
教科書的な意味の ASDF JKL; ホームポジションである必要はまったくないんですが、みんなそれぞれマイベストポジションがありますね? ワードを打ち切ったら即、意識的かつスピーディに、そのベスポジにシュッと手と指を戻し、力まない自然な状態に戻すこと。
初打の動作はこのポジション、ニュートラルな状態を基点とした運動だから、戻しが不正確だったり遅かったり力んだままだったりして、そのまま次ワードが表示されると大きなタイムロスにつながっちゃう。
e-typing だとワード間にインターバルがあるからきっちり戻しきれるね。打トレとか簡易タイピングチェッカーだとインターバルがないから、戻しきれない。手の位置とワード次第では戻さないで打った方がいい状況もあるけど、基本的には戻すことを意識したほうが安定するはず。
効果のほどは 10 ms としたけど、これは元々それなりに戻しができてた人の話ね。平均的に 10 ms というより、10 ワードに一度は事故が起こって 100 ms ロスしてたのを予防でき、平均 10 ms 得みたいな考え方。我流運指で変態的な打ち切り方して、その余韻に浸っちゃって指先の火照りをただただ感じ震えてた全然戻してねえ、みたいな雑プレイからだと、もっと大きな効果があるよ。
4. 打鍵意識の無駄をなくす [-10 ms]
すみません、これはちゃんと考察できてなくて、伝わる程度に言語化できる自信もなく、読んでも意味不明かもしれないんですけど、一応入れちゃいました。てへっ。
キーを打つときの意識の話です。初速を速くしたいぞ~と力むと、指を動かす動作の前に、あるいは動作の中に、逆に無駄が発生しがちかも? うまくやろうとしてかえって下手になっちゃうの、あるあるだよね。
例えば次のような感じで意識してるとしたら、それは逆に遅くなってる可能性が高い……気がする(個人の感想です):
- ❌ 指先に全神経を集中して → 今だ!
- ❌ 3, 2, 1…→ GO!
- ❌ 静……そして…… → 動!
- ❌ 加速ワード来い来い来い → おりゃ!
- ❌ 指を少しだけ浮かせておいて → 下ろす!
- ❌ 全力で弾ませるそして → 押し込む!
- ❌ 子ウサギが跳ねるように → ぴょん!
- 他多数
では、どうすればいいか?
⭕ 打
こうです! わかりましたか? 私は何言ってるか全然わかりません。
でもね、確かに初速がキマってるときは「打」という感覚しかないの。「気づいたら打ってた」は言い過ぎカッコつけすぎ、でもそう言いたくなる気持ちもわかる。自然に何もなかったかのように「打」って動いてて、キーを打ち抜いてから「えっ今のデラ速くね!?」ってセルフびっくり。体験としてはそういう感じ。
「つまり無意識ってことね」と要約してしまうのはちょっと違うんです。ただぼーっと普段の感覚に任せて無意識でいるのとは違うし。「無意識、無意識……」って考えてるのも無意識とは言わないし。極度に集中していて必要なことは考えてもいるんだけど、こと初打を認識して指を動かしキーを打ち抜く、という行動に関しては一切自分の意識が介入してなくて、機械になったかのように処理するイメージ。出たよイメージ。
まあガチタイパーなら誰しもこういうゾーン体験、トリップ状態みたいなのは経験があると思うんですが、初速に関してもやりこんでいくとそういうのがあるんで未体験ゾーンな方はお楽しみにという。
いや結局何をどうすればいいのかはサッパリわかりませんけどね。少なくとも余計な意識をしていると認識面でも動作面でもタイムロスがあるのはあるだろうと勝手な仮定をして、それを削る効果として 10 ms 計上。
5. 視線移動の無駄をなくす [-15 ms]
ワードを認識する最初のステップは目で見ること。ここもきっちり無駄を削ることで初速を改善することができます。
まず、前ワードを打ち切ってからてふらふらと視線を漂わせていた場合は、次ワードが表示された瞬間にそこへ目を動かす動作が必要になるね。この眼球運動をサッケードと呼ぶらしいんですけど、案外時間がかかって 30 ms とからしい [nooyosh, 2011]。ワードが表示される前に意識して視線を動かしておけば、このロスは防げる。
さすがにエタイでこれやってない人はいないと思うんですけど、TOD みたいなワード表示位置がブンブン変わるゲームだと大事だね。展開から次のワード表示位置を思い出し、あるいは予測し、事前にそこへ視線を合わせるというプレイスキルが求められる。TOD やりこんでて初速が速い人ってこれがめちゃ上手いんですよ。
さらに、視線を移動させるといっても精度悪くだいたいの位置を見るのと、ズレなくズバッと射抜いて中心視するのでは割と反応時間に差が出るという報告 [Naoyuki Osaka, 1976] があるよ。少しくらいズレててもわれわれはかしこいので読めちゃうし反応できちゃうんで気にしてないけど、実はけっこう遅くなってるってわけ。
初打のみに集中するという 2. のポイントも関係してくるね。数文字を適当に認識するぞーとやってる場合は、どこに視線を合わせたらいいのかわからなかった。その結果、視線がさまよいがち。でも一文字だけ見ると決めていれば、その一文字が中心に来るように目を動かすというはっきりした目標地点が生まれる。
ズレなくブレなく、完璧な位置で文字を射抜くように心がけよう。完璧な位置ってどこなんだって? 解剖学的には「中心窩のど真ん中」ってことになるっぽいけど、いやそれがどこやねんって話だし、人にもよりそうだからそこは各自で微調整して探ってね。その位置を見ることで本当に速くなったのか確認するのは至難だから、結局は見やすい「気がする」で調節するしかないけどね! オカルト!!
小技としては、ディスプレイに付箋を貼って正確な位置をマーキングする方法があります。自宅環境で打つ競技なら、これは「不正にスコアを向上させる行為」には該当しないでしょう。たぶん。
上級テクニックを紹介すれば、視線は初打の位置にガッチリ固定したままでずっと動かさないというものが考えられます。ワード数が限られているエタイ腕試しのような環境なら、数文字読めればワードは確定されてあとは記憶から想起して打てるので、目で追う必要なんてないでしょうという極論だね。インターバルがあるとはいえ、サッケードが起こるとどうしても余波で眼球がブレるので正確な位置合わせに失敗するリスクがあるけど、ずっと固定しておけばそれも防げるという。類似のアイデアを父・信仁さんから頂きましたが、私はここまでは実践できてません。宇宙人でもアンドロイドでもないんでね……。
ま、そこまではやらないにしても、視線移動のことを何も意識しないのと、一文字目を射抜く意識でガッチリエイムするのではだいぶ差がある。効果は論文参考にしつつ 15 ms としました。
6. 刺激を強くする [-10 ms]
感覚器官への刺激が強いほど反応時間が短縮される [Naoyuki Osaka, 1976] ことが知られています。実際にこういう測定で試してみると体感可能。
タイピングでいえばワードの文字が視覚刺激となって反応をしているので、文字が大きく、コントラストがはっきりと表示されれば初速が改善するということになるね。
ってことで、こう。
もっと拡大すればもっと刺激は強くなるけど、やりすぎると 2. の要領で二文字目以降を認識する際、視野に収まりきらず支障が出るというトレードオフがあるのよね。なので、二文字目以降の認識が問題なく可能だったこれくらいのサイズに落ち着いたよ。文字が大きくなることで、5. で取り上げた眼球がぶれて視線に生じてしまうズレの影響も相対的に小さくなるから一石二鳥。
色については白黒よりも白赤とか黒黄の方が強い刺激と感じる場合があるらしく [要出典]、それを試してみるのもいいかも。なお e-typing で色を変えるのはソフト環境に手を加えることになるんで「不正にスコアを向上させる行為」の定義次第ではだめかもね。グレーかな。
別解として、画面を拡大するんじゃなく目を画面にクッソ近づけるという方法もあるんだけど、姿勢を正してタイピングすることが大事ですね! と某・美マエストロハンドが言ってたし、みんなのド近眼が進んでもかわいそうなので、こっちを推しとくね。
効果のほどは文献参照で 10 ms、これは割とあってそう。
7. 投機的に構える [-5 ms]
初打としてくるかもしれないキーにヤマを張って、運が良ければ大きなアドバンテージを得られるって方法だよ。これもコンピューターの用語で、 投機的実行と呼ばれてる手法を参考にしてます。本当にプラス効果があるのか要検証なんだけど、紹介しておくね。
やり方としては(A が来るはず。来たら小指をこう押し込むぞ)という打鍵動作の組立まで行った上に(A というのはこういう字形だ……)と、一文字目の位置に視覚的なイメージまで重ねた状態でワード表示を待つ。もし本当に A が来たらそのまま指を GO、A でなかったら通常の一文字読んでつないでいく方法に戻す。だけ。
「いや初打の処理内容を複雑にしてるだけやん。読みが外れたときのロスがあるから使い物にならんわ」というご意見があろうことは 2. に同じね。
反論も 2. に同じで、脳機能として並列処理が可能なら、A の処理は事前に組立まで完了させているので読みが外れた場合のやり直しに大きなロスは出ない。慣れてればの話ね。「それが事前にイメージした文字か?」と一致判定する時間だけがペナルティです。字形のイメージまで作り上げた上で「同じか?」と判定するだけなので、この時間は通常の認識で文字を決定する時間よりも短くて済みます。
当たった場合はというと、初打のための認識・組立が丸ごとカットできて、いきなり動作できる。脳科学用語でいうと弁別反応時間というものに相当するっぽいです。これは、判断抜きに反射で反応しさえすればいい場合の反応時間(単純反応時間)に次いで高速なことが知られています [要出典]。
つまり、複数の可能性があってそれぞれに正しく反応しなきゃいけない(選択反応時間)状況を、当たりかハズレかだけ見てあらかじめ決めといた動作を行うか行わないか決定する状況(弁別反応時間)に落とし込む効果があるといえますね。
効果はかなり大きくて、当たった時に無駄なく一致判定して動けると通常のレイテンシから -50 ms 程度の記録が出たりします。私自身の記録でもたまにレイテンシ 270 ms とかいう人外記録が出てるワードがあるんですが、それはこの投機実行が成功したケースだよ。
もちろん外れた場合にロスも無視できない程度にはあり、リスクと引き換えの極端な作戦であることは間違いない。1 ワードも当たらない場合だってあるわけだからね。ただ、ワードセット次第で一打目に来るキーの分布に極端な偏りがあったりすると、グンと現実味を帯びてくる。今後使う状況もあるかもしれないと思って練習してみてたよ。
未検証なことが多いし、ここでの効果は -5 ms にしておくけど。
8. 十分な睡眠と栄養を取る [-5 ms]
初速に限った話ではなく、タイピング一般だろうがスポーツだろうが頭脳労働だろうが何でも、人間の身体のフルスペックを発揮するには睡眠と栄養が必要不可欠だよ。
いやはやまったく、自戒を込めてね……。
9. カフェインやニコチンを摂取する [-10 ms]
公式なスポーツ競技で薬物使用が厳しく取り締まられているのは、効果があることがはっきりしているから。でもねータイピングとかいうマイナー競技にそんな秩序はねーんだこれが! 積極的にキメていきましょう。
先行研究により、カフェインやニコチンは反応時間を短縮する効果があると示されているし、古来からリポ D 効果とか言われてたからみなさんご周知のとおりかと思います。ニコチンもくもくでも効果あるってのは初耳でしたけども。タイパー喫煙部がんばってください。
カフェインに戻ると、RTC2018 で 3 位入賞を果たしたやださんによれば、
毎日本番前にレッドブルを摂取してました。レイテンシが平常時と比べて 30〜50ms 短くなるような気がします。
という過激な数字が寄せられてます。RTC 会場の Red Bull 社への忖度 ……が入ってるかどうかは謎ですけど、参考文献 The effects of low doses of caffeine on human performance and mood をチラ見しても単純反応時間(刺激を受けたら決まった一通りの動作をするだけ)ならば 35 ms 縮んでいます。引用されまくってる論文で信憑性高そうだし、効果があることは疑いないでしょう。
ただし 5 肢選択反応テストってやつの結果はあまり向上してないんだよね。こっちのがワード見て判断するタイピングには近い実験なんだけど。なのでタイピングにおけるレイテンシが 35 ms ごっそり削れるとは思わないほうがいいかも。タイピング中毒はいいとして急性カフェイン中毒はアカンので、ここではひかえめに 10 ms にしとくね。作為~。
10. 手・身体を温める [-10 ms]
お風呂に入った後だとなんか手がめっちゃよく動いて結果記録更新につながった、という風呂効果は有名だよね。温度が上がると筋肉にバフがかかってよく動く [Asmussen E, 1945]。
[Bishop D, 2003] によれば筋肉の温度 1 度上昇につき 4% 以上向上するとかで、かなりの壊れバフだということもわかります。主にこの筋力上昇で動作が改善していい感じになるのを、風呂効果とか言ってありがたがってんだね。筋力が向上したときに初打動作がどれだけ速くなるのか……はなんか色々わかんないので詳しい人お願いします!
それで、もちろん動作面だけで見てもレイテンシ縮むんだけど、プラスで温度上昇で神経伝導速度も上がることが知られているんだって。神経伝達速度が上がれば動作命令が指先に届くまでの時間が短縮されて、その分レイテンシが短くなるね。数パーセントは向上するみたいだけど、元が十分速いから時間差にするとそんなに効果はないっぽい。1 ms 程度。
これらを合わせたレイテンシ短縮効果は~? 詳しい人が正しい知識に基づいて計算すればちゃんと算出できそうですが、私はよくわかんないので、ヤマカン 10 ms です。はい。
温度を上げる方法、まあ風呂に入るのもいいんですけど、ちょっと体を動かしたり、キーボードを使った軽負荷の動作で温めるとか、きちんとしたウォームアップのスタイルを作ると理想じゃないかな。健康的だし。
11. キーボードを変える [-15 ms]
[!! 忖度が含まれている可能性がきわめて高い !!]
初速について考えるなら機材の差が無視できないという、身もふたもない現実があります。金をかければ記録が伸びてゲームに勝てるという闇。それなんてソシャゲ? タイピングは Pay to Win だった? ストイックなタイパーからするとため息が出る部分ですけど、ここではその現実に向き合っていこうね。
まずはキーボードだけど、反応に時間がかかるキーボードを使っている場合、レイテンシがその分伸びちゃうよ。初打以後も各打鍵が認識されるまでの時間がそれぞれ遅れていくので、最終的な打ち切り時間でもその分損をしてしまう。結局、レイテンシでついた差はそのまま有効ってことになるね。
反応に時間がかかるってどういうことか? 二つの要素に分解できるよ。
ひとつめはキー荷重や アクチュエーションポイントの差で、指がキートップに触れてからスイッチが ON になるまでの時間で差がつくというもの。力学的に言って、同じ力で打ち込んだとしても軽くて浅いキーボードの方が早くスイッチ ON を認識する。そんなの誤差レベルの話でしょ? と侮るなかれ、[eigh8_t, 2011] の試算によれば 55g の凡メンブレンっぽいのと 45g のリアフォっぽいのでは底打ちまでの時間が 3 ms 変わり、凡メンブレンとキーストローク 2.8 mm の浅パンタっぽいのでは 7 ms 変わるという結果になってます。常識的には ms 単位の差とかはいはいワロスワロスで終わりですが、今私たちがキ〇ガイみたいに必死になってるのはその ms 単位のロスを詰めるということ。7 ms って超デカくないです?
ちなみに最新の Realforce R2 を使えば、軽荷重な上に APC 機能でアクチュエーションポイントを 1.5 mm に浅くすることができるよ。初速に関して言えば「軽い」と「浅い」が両立している理想的なキーボードってことになるね。3 + 7 = 10 ms くらい縮んじゃうのぉォ!? なんてものを開発してしまったんだ東プレ……Realforce RGB TKL ください!
閑話休題、もうひとつの要素というのは、USB キーボードのポーリングレートの差で、スイッチが ON になってからその情報がコンピューターに届くまでの時間で差がつくというもの。
一般的なキーボード(Realforce 無印も含む)は 125 Hz だから、1 秒間に 125 回の頻度で打鍵がコンピューター側に伝わってるわけね。固定ワードやりこみとかで ms 単位の詳細な打鍵ログをとって、分解能が 8 ms くらいしかない? と気になった人もいると思うんだけど、それはタイマーの精度とかじゃなくてこの 125 Hz 縛りの影響だよ。
いわゆるゲーミングキーボードでは、これが 1000 Hz になってる。1 ms ごとにポーリングされるから、詳細な記録を取るのにも向くし、何よりレイテンシが縮むよね。平均して (8–1)/2 = 3.5 ms くらい縮む。
ちなみに Realforce RGB シリーズではポーリングレート 1000 Hz を実現している! Realforce の軽荷重でありながらメカニカルライクなタッチ、APC による高速反応に加えてトドメの 1000 Hz ですって……!? なんてものを開発してしまったんだ東プレ……Realforce RGB TKL ください!
(追記: Realforce R2 シリーズも Realforce RGB シリーズ同様に 1000 Hz です。旧 Realforce をお使いの方は乗り換える動機が増えましたね?)
……戯言はさておき、残念なキーボードからこれら要素を両方改善したキーボード(Realforce RGB とか Realforce RGB とか)に乗り換えた場合、あわせて 15 ms の短縮が可能となるね!(10 + 3.5 + 謎の 1.5)
12. ディスプレイを変える [-15 ms]
キーボード同様に重要になるのがディスプレイです。お持ちのディスプレイを窓から投げ捨てて、今すぐこれに切り替えてください ↓
もちろん冗談ですが、みんな大好き液晶ディスプレイは構造上遅延が避けられないんだ。CRT(ブラウン管)にはそれがなかった。
画面に映るのが遅ければ打つのもその分遅くなるから、ディスプレイ君が速くなればなるだけレイテンシは縮みます。CRT は冗談なので、応答速度が高速な液晶ディスプレイへの乗り換えを検討してね。パソコン新しくしたら記録が伸びたぁ! とかいう場合、大抵こいつが犯人だからね! ちなみに TOD が流行っていた 2002 年頃はちょうど CRT から液晶への過渡期だったんだけど、当時の液晶の遅延は悲惨だったから、新しい物好きが液晶ディスプレイに走っては記録ガタ落ちするという笑える流れがあったよ。
実際に品定めする際は、応答速度の「GTG」で表記されているスペックが参考になると思うです。世代が古い液晶だと 24 ms とか遅れてるね。 2010 年以前の液晶とかは高い確率でダメなので捨てましょう。ここ数年のやつなら悪くて 12 ms くらい、良いものは 4 ms ~ 8 ms、そしていまどきのゲーミング仕様の製品は 1 ms。
応答速度だけでもひどい差なんだけど、さらにリフレッシュレートと呼ばれる要素でも差が広がるよ。
1 秒に何回画面を更新するかというスペックがリフレッシュレート。昔の液晶はみんな足並みそろえて 60 Hz だったんだけど、ここにきて e-Sports が流行りだしたために 120 Hz とか 240 Hz とかの製品が続々出現。付加価値つけてきやがってるわけなので、かなりお高いです。
しかし初速改善においては、スペック通り着実に効果を発揮します。普通の 60 Hz から 240 Hz の製品に乗り換えると、(1000 / 60–1000 / 240) / 2 で、平均して 6 ms 早くワードが表示されることになるからね。
元々使ってた液晶が 10 ms / 60 Hz で、乗り換え先が 1 ms / 240 Hz という設定だと、合計で 15 ms の改善。数万円の課金で買える 15 ms、いかがですか?
13. 練習する [-10 ms]
「初速ってそもそも伸びるもんなの」「若い頃からタイピングしてないとダメらしい」「運動神経の限界」「TOD から入るかどうかで変わる」「最適化ありだから初速は犠牲」「そんなに差はつかないし」「才能だなあ」
己を鍛えて記録を伸ばすことを楽しむはずのタイパーが、なぜか初速の話となるとこのような諦観に陥っている。どうかと思うんだぜ。以上の内容を知ってなお、その上で、初速は何してもろくに伸びない部分だと、先天的な能力の差だと、これから先の人生で加齢とともに衰えていくほかない部分だと、思いますか?
No なら――練習して伸ばそうじゃないですか。
見てきた通り、初速にかかわる要素は山ほどあります。その中には本当に練習ではどうにもならない生理的要素も含まれているかもしれませんね。でも、そうではない伸ばせる要素も必ずある。ある以上、全体としては、練習すれば初速は上がる。上がるんです。
上記してきたようなポイントをおさえていくのもいいし、単純反応時間を削る目的の練習も効果があるかもしれない。ホームポジションで構えているフォームにだって無駄があるはずで、違った構え方を試して練習してみるとか。タイピングのレイテンシに相当する概念である選択反応時間は反復訓練で短縮できるという報告もあるから、ひたすら初速意識で e-typing 打ち続けるのだって効果は期待できる。
そういう小さな小さなチリが積もって、初速の差になっているんです。
- ローマ字読みする [-30 ms]
- 初打を先行させる [-15 ms]
- ホームポジションへの戻しを意識する [-10 ms]
- 打鍵意識の無駄をなくす [-10 ms]
- 視線移動の無駄をなくす [-15 ms]
- 刺激を強くする [-10 ms]
- 投機的に構える [-5 ms]
- 十分な睡眠と栄養を取る [-5 ms]
- カフェインやニコチンを摂取する [-10 ms]
- 手・身体を温める [-10 ms]
- キーボードを変える [-15 ms]
- ディスプレイを変える [-15 ms]
- 練習する [-10 ms]
計 160 ms。
それぞれは小さくても、合わせれば希望と可能性に満ちた数字だよね。